学会誌(国際誌)Fisheries Oceanography

Fisheries Oceanography

学会員の論文の紹介

マサバの卵生産に見られる種内密度効果

今回は、マサバの卵生産の密度依存性を調べた高須賀明典さん(東京大学)の論文を紹介させて頂きます。

Akinori Takasuka, Michio Yoneda, Yoshioki Oozeki, 2021, Density-dependent egg production in chub mackerel in the Kuroshio Current system. Fisheries Oceanography, 30, 38-50.

https://doi.org/10.1111/fog.12501

  • ・38年にわたる産卵調査データを用いて黒潮流域のマサバの産卵親魚量と卵生産量の関係性を調べました。
  • ・産卵親魚個体当たり卵生産量、産卵親魚単位体重当たり卵生産量は、産卵親魚量が増えると指数関数的に減少し、種内密度効果が働いていることがわかりました。
  • ・産卵親魚個体当たり卵生産量、産卵親魚単位体重当たり卵生産量に見られる密度効果は、最大資源量と資源変動幅が大きいマイワシとマサバで共通してみられました。

広い太平洋の東西で餌を使い分けるサンマ

今回は、サンマの食性を調べた宮本洋臣さん(水産資源研究所)の論文を紹介させて頂きます。

Hiroomi Miyamoto, Dharmamony Vijai, Hideaki Kidokoro, Kazuaki Tadokoro, Tsuyoshi Watanabe, Taiki Fuji, Satoshi Suyama, 2020, Geographic variation in feeding of Pacific saury Cololabis saira in June and July in the North Pacific Ocean. Fisheries Oceanography, 29, 558-571.

https://doi.org/10.1111/fog.12495

  • ・サンマの消化管内容物を広域に調べた結果、場所によって餌料が異なっていることがわかりました。
  • ・水温が14℃以下かつ消化管内容物量が多いところでは、これまで知られていたNeocalanus plumchrus/flemingeriに加えNeocalanus cristatusが多く食べられていました。
  • ・東経175度以西ではNeocalanus plumchrus/flemingeriが、以東ではNeocalanus cristatusが主要な餌となっていました。

成長が良いマガキほど湾内がお好き?

今回は、松島湾のマガキ幼生の輸送予測を試みた筧茂穂さん(水産資源研究所)の論文を紹介させて頂きます。

Shigeho Kakehi, Hidekazu Shirai, Shinya Magome, Takamasa Takagi, Katsuaki Okabe, Kazufumi Takayanagi, Masami Hamaguchi, Hiroshi Ito, Takashi Kamiyama, 2020, Predicting the larval transport of Pacific oyster Crassostrea gigas during the seedling collection season. Fisheries Oceanography, 29, 484-504.

https://doi.org/10.1111/fog.12491

  • ・松島湾のマガキの幼生発生初期の分布観測値を初期値として、天文潮位と過去の気象条件、河川流量を用いて幼生の輸送予測を実施しました。
  • ・幼生の死亡と成長に伴う鉛直分布変化を取り入れることで付着直前の幼生の分布が予測可能であることを示しました。
  • ・感度解析から、幼生の成長が早いと湾内に留まる割合が増加することがわかりました。

黒潮生態系を支えるメソ動物プランクトンの栄養源や如何に

今回は、黒潮のメソ動物プランクトン群集の栄養源を調べた加留福太郎さん(鹿児島大学)の論文を紹介させて頂きます。

Fukutaro Karu, Toru Kobari, Taiga Honma, Takeru Kanayama, Koji Suzuki, Naoki Yoshie, Gen Kume, 2020, Trophic sources and linkages to support mesozooplankton community in the Kuroshio of the East China Sea. Fisheries Oceanography, 29, 442-456.

https://doi.org/10.1111/fog.12488

  • ・東シナ海の黒潮においてボトル実験を行いメソ動物プランクトンの栄養源について評価しました。
  • ・メソ動物プランクトンは、ハプト藻類,黄金色藻,緑藻,珪藻などのナノ植物プランクトンや無殻繊毛虫などの微小動物プランクトンを摂食していました。
  • ・しかし、ナノ植物プランクトンと無殻繊毛虫だけではメソ動物プランクトンの餌要求量の39%しか満たさず、他の栄養源も利用していることがわかりました。

マサバはスーパーアスリート?

今回は、マサバの遊泳-呼吸実験を行った郭晨穎(GUO Chenying)さん(東京 大学)の 論文を紹介させて頂きます。

Guo C., S. Ito, N. C. Wegner, L. N. Frank, E. Dorval, K. A. Dickson and D. H. Klinger, 2020, Metabolic measurements and parameter estimations for bioenergetics modelling of Pacific Chub Mackerel Scomber japonicus. Fisheries Oceanography, 29, 215-226.

https://doi.org/10.1111/fog.12465

  • ・カルフォルニア沖のマサバの生物エネルギーモデルを構築するための基礎情報 として、呼吸代謝の水温・体重・遊泳速度依存性を調べました。
  • ・ニシン、カリフォルニアマイワシ、カタクチイワシ属などの他の小型浮魚類と 比較して、体重・水温・遊泳速度依存性がすべて低いことがわかりました。
  • ・これらのことから、マサバが効率的な遊泳能力と環境水温変動への低い反応性 を持つことが推測されました。

マダイは暖かい冬が好き!

今回は、瀬戸内海東部のマダイの漁獲量変動と水温の関係を調べた山本昌幸さん(香川県水産試験場)の論文を紹介させて頂きます。

Yamamoto M., H. Omi, N. Yasue, A. Kasai, 2020, Correlation of changes in seasonal distribution and catch of red sea bream Pagrus major with winter temperature in the eastern Seto Inland Sea, Japan (1972–2010). Fisheries Oceanography, 29, 1-9.

https://doi.org/10.1111/fog.12432

  • ・瀬戸内海東部のマダイの漁獲量と冬期水温の関係を調べました。
  • ・内湾域の大阪湾,播磨灘,備讃瀬戸における1972-86年の最低水温は、マダイの生息下限である8℃を下まわることがありましたが、1987-2010年ではほとんど8℃以上でした。
  • ・1980年後半以降内海域における冬期の漁獲量が増加し、1990年代以 降は内海域での産卵期の漁獲量が大幅に増加しました。
  • ・暖冬による冬期の内湾域の分布拡大と産卵量の増加が、瀬戸内海東部 のマダイ漁獲量の増加に大きく影響したようです。

メバチマグロの鉛直移動による柔軟な体温調節

今回は、アーカイバルタグデータから見出したメバチマグロの鉛直移動による柔軟な体温調節様式に関する日野晴彦さん(東京都島しょ農林水産総合センター)の論文を紹介させて頂きます。

Hino H., T. Kitagawa, T. Matsumoto, Y. Aoki, S. Kimura, 2019, Changes to vertical thermoregulatory movements of juvenile bigeye tuna (Thunnus obesus) in the northwestern Pacific Ocean with time of day, seasonal ocean vertical thermal structure, and body size. Fisheries Oceanogarphy, 28, 4, 359-371.

https://doi.org/10.1111/fog.12417

  • ・メバチマグロ未成魚の体温調節に関連した鉛直行動を、アーカイバルタグデータを用いて調べました。
  • ・日中、摂餌のために深く潜行し、体温が低下すると浅層まで浮上して体温を回復させるといった体温調節行動が観測されました。
  • ・浮上開始の深度・水温・体温は、餌料が密集する層に対応して変化させている様子が観察されました。
  • ・混合層が発達する1~5月には、浮上を混合層付近までに抑えて移動コストを抑制させている様子が捉えられました。
  • ・成長に伴って遊泳深度が増加し、浮上頻度が減少したにも関わらず、体温が高く保持されていたことから、成長とともに体温調節能力が発達していることが推測されました。

マイワシ、サバ類は好みの環境で産卵し黒潮に運ばれている?

今回は、マイワシ、サバ類の産卵場(黒潮域)と成育場(黒潮続流域)における水塊特性とカイアシ類群集を比較した寒川さん(水産研究・教育機構)の論文を紹介させて頂きます。

Sogawa S., K. Hidaka, Y. Kamimura, M. Takahashi, H. Saito, Y. Okazaki, Y. Shimizu, T. Setou, 2019, Environmental characteristics of spawning and nursery grounds of Japanese sardine and mackerels in the Kuroshio and Kuroshio Extension area. Fisheries Oceanogarphy, 28, 4, 454-467.

https://doi.org/10.1111/fog.12423

  • ・黒潮から黒潮続流域のマイワシとサバ類の産卵場と生育場における現場観測データから、卵と仔魚が豊富な海域の水塊特性とカイアシ類の指標群集を見出しました。
  • ・上流にあたる黒潮域の卵が豊富な地点と、下流にあたる仔魚が豊富な続流域の地点では、水塊特性とカイアシ類群集が類似しており、輸送および成長過程での環境変動が小さいことがわかりました。
  • ・伊豆諸島北部において卵が豊富な状況が観測された10日後に、同海域で卵が減少していましたが、水塊特性とカイアシ類群集も卵が豊富な状況と異なっていました。このことから、場所だけでなく特定の環境要因も産卵の決定に重要であることが示されました。

マイワシは低水準期でもやはり黒潮流軸近傍に頼ってる

今回は、低水準期におけるマイワシの産卵期、産卵場所、仔魚分布を調べ、加入量指数と水温の関係を再検討した西川悠さん(海洋研究開発機構)の論文を紹介させて頂きます。

Nishikawa H., 2019, Relationship between recruitment of Japanese sardine (Sardinops melanostictus) and environment of larval habitat in the low‐stock period (1995–2010). Fisheries Oceanogarphy, 28, 2, 131-142.

https://doi.org/10.1111/fog.12397

  • ・マイワシ太平洋系群の産卵様式を、1995年前後(資源量高水準期から低水準期へ変化)で比較したところ、産卵場が北東かつ黒潮内側へ移動し、産卵期が長くなっていることがわかりました。
  • ・資源量高水準期には仔魚のほとんどが黒潮流軸近傍に輸送されていたのに対し、資源量低水準期には黒潮流軸およびその北へと分散されていたことが推定されました。
  • ・しかし、資源量低水準期においても、資源量高水準期同様に冬春季の黒潮流軸近傍の水温のみが加入成功指数と有意な相関関係を示しました。
  • ・結局、資源量水準によらず黒潮流軸近傍の環境が加入の鍵となっていることが示されました。

マサバは冬に春にも水温に敏感

今回は、マサバの加入成功率と水温の関係を調べた金子仁さん(東京大学大気海洋研究所)の論文を紹介させて頂きます。

Kaneko H., T. Okunishi, T. Seto, H. Kuroda, S. Itoh, S. Kouketsu, D. Hasegawa, 2019, Dual effects of reversed winter–spring temperatures on year‐to‐year variation in the recruitment of chub mackerel (Scomber japonicus). Fisheries Oceanogarphy, 28, 2, 212-227.

https://doi.org/10.1111/fog.12403

  • ・マサバ太平洋系群の加入成功率と冬季産卵場水温および粒子追跡実験から推定した仔魚経験水温の関係を調べました。
  • ・2000年以降のデータから、冬季産卵場水温が低いほど、そして春季の仔魚経験水温が高いほど、マサバの加入成功率が高くなることがわかりました。
  • ・上記の経験水温などの変動は黒潮流路と密接に関係していることがわかりました。
  • ・マサバは、産卵までは低水温を、孵化後は高水温を好む、気難しい魚のようです。

太平洋と日本海のケンサキイカは同郷のよしみ

今回は、平衡石のSr:Ca比を用いてケンサキイカの移動経路を調べた山口忠則さん(佐賀県玄海水産振興センター)の論文を紹介させて頂きます。

Yamaguchi T., T. Aketagawa, M. Miyamoto, N. Hirose, M. Matsuyama, 2018, The use of statolith analyses and particle‐tracking experiments to reveal the migratory route of the swordtip squid (Uroteuthis edulis) caught on the Pacific side of Japan. Fisheries Oceanogarphy, 27, 6, 517-524.

https://doi.org/10.1111/fog.12270

  • ・和歌山県尾鷲沖で採捕されたケンサキイカのふ化場所と移動経路を、平衡石の輪紋数やSr:Ca比、順・逆方向の粒子追跡実験によって推定しました。
  • ・Sr:Ca比から推定した経験水温も、追跡実験における粒子の移動経路上の環境水温も、対象としたケンサキイカが台湾北部沖の黒潮に起因する湧昇流による冷水を経験していたことを示しました。
  • ・この結果から、太平洋側のケンサキイカも東シナ海でふ化し、黒潮によって太平洋沿岸を移動したものと推定され、日本列島の東西で漁獲されるケンサキイカは東シナ海から輸送される同一資源に由来するという仮説が立証されました。

サンマの加入量には水温も餌も重要?

今回は、サンマの加入量変動を調べた一井太郎さん(水産研究・教育機構)の論文を紹介させて頂きます。

Ichii T., H. Nishikawa, K. Mahapatra, H. Okamura, H. Igarashi, M. Sakai, S. Suyama, M. Nakagami, M. Naya, N. Usui, Y. Okada, 2018, Oceanographic factors affecting interannual recruitment variability of Pacific saury (Cololabis saira) in the central and western North Pacific. Fisheries Oceanography, 27, 5, 445-457.

https://doi.org/10.1111/fog.12265

  • ・サンマの初期生活期の加入量指数の変動(1979~2006年)と海洋環境の関係を調べました.
  • ・加入量は,1994~2002年を除く全期間において,冬の産卵/生育域(黒潮再循環域)の海面水温(SST)と正相関を示しました.
  • ・一方,1994~2002年については,春の産卵/生育域(黒潮-親潮移行域から黒潮続流域)の混合層深度(MLD;春の植物プランクトン濃度の指標)と正相関を示しました.
  • ・これらのことから, サンマの加入量変動は,餌が十分あれば水温に支配され,餌条件が悪い年には餌の量に支配されていると推測されました.

北西太平洋ではマイワシとカタクチイワシはライバル?

今回は、論文賞を受賞された中山新一朗さん(水産研究・教育機構)のCCMを用いた論文を紹介させて頂きます。

Nakayama S., A. Takasuka, M. Ichinokawa, H. Okamura, 2018, Climate change and interspecific interactions drive species alternations between anchovy and sardine in the western North Pacific: Detection of causality by convergent cross mapping. Fisheries Oceanography, 27, 4, 312-322.

https://doi.org/10.1111/fog.12254

  • ・北西太平洋のマイワシ/カタクチイワシ魚種交替現象の因果構造を、近年開発された非線形時系列解析法であるconvergent cross mapping (CCM)を用いて解析しました。
  • ・CCMは、擬似相関の可能性を排除しつつ、ある要素が他の要素に影響しているかどうかを検出することができる方法です。
  • ・単なる相関ではなく、いつどこの表層海水温(SST)が両種の個体群動態に影響しているか明らかにしました。
  • ・また、両種の間の種間相互作用も検出されました。これはカリフォルニアのマイワシ/カタクチイワシ魚種交替現象では検出されておらず、北西太平洋に固有の現象である可能性が高いです。

実は東シナ海の黒潮は餌が豊富!

今回は、黒潮パラドックスの解明に挑んだ小針統さん(鹿児島大学)の論文を紹介させて頂きます。

Kobari T., W. Makihara, T. Kawafuchi, K. Sato, G. Kume, 2018, Geographic variability in taxonomic composition, standing stock, and productivity of the mesozooplankton community around the Kuroshio Current in the East China Sea. Fisheries Oceanography, 27, 4, 336-350.

https://doi.org/10.1111/fog.12256

  • ・回遊性魚類の餌料環境を評価するため、東シナ海黒潮におけるメソ動物プランクトン群集の分類群組成、生物量、生産力を調べました。
  • ・この海域ではカラヌス目カイアシ類が最も多く、小型カイアシ類やゼラチン質動物プランクトンがこれに次ぎました。
  • ・黒潮流軸では、黒潮内側に匹敵するほど高いメソ動物プランクトン個体数密度、生物量、生産速度、タンパク質合成酵素活性が認められました。
  • ・これらの結果から、東シナ海黒潮のメソ動物プランクトンは回遊性魚類に好適な餌を提供していると考えられました。

栄養塩濃度予測がワカメ養殖の強い味方に!

今回は、養殖現場で活かされている筧茂穂さん(水産研究・教育機構)の論文を紹介させて頂きます。

Kakehi S., K. Naiki, T. Kodama, T. Wagawa, H. Kuroda, S. Ito, 2018, Projections of nutrient supply to a wakame (Undaria pinnatifida) seaweed farm on the Sanriku Coast of Japan. Fisheries Oceanography, 27, 323-335.

https://doi.org/10.1111/fog.12255

  • ・岩手県のワカメ養殖場における栄養塩の供給機構とその予測手法を開発しました.
  • ・秋季における栄養塩供給は、養殖場(水深50m程度)よりも沖合(水深150m以上)の海域での鉛直混合による表層への栄養塩供給が重要であることがわかりました.
  • ・観測された水温,塩分,栄養塩濃度の鉛直分布を初期値とした鉛直一次元モデルを海面冷却で駆動し,混合層深度の発達と表層への栄養塩供給を予測する手法を開発しました.
  • ・アンサンブル予測を実施し、ワカメ養殖が可能な栄養塩環境が形成される確率をカレンダーに表示し,情報発信しました.
  • ・栄養塩の連続観測データで検証した結果,予測が的中していることが確かめられました.この技術は栄養塩不足によるワカメの生育不良の回避に役立てられています.

マイワシは長~い春(ブルーム)がお好き!

今回は、春にふさわしい児玉武稔さん(水産研究・教育機構)の論文を紹介させて頂きます。

Kodama T., T. Wagawa, S. Ohshimo, H. Morimoto, N. Iguchi, K. Fukudome, T. Goto, M. Takahashi, T. Yasuda, 2018, Improvement in recruitment of Japanese sardine with delays of the spring phytoplankton bloom in the Sea of Japan. Fisheries Oceanography, 27, 4, 289-301.

https://doi.org/10.1111/fog.12252

  • ・マイワシ対馬暖流系群の加入について,日本海の春季ブルームのタイミングとのマッチーミスマッチで25%程度説明可能なことがわかりました.
  • ・具体的には,1998年から2015年にかけて海色衛星によって得た海面クロロフィルa濃度の経験的直交関数解析を利用しています。
  • ・各年の春季ブルームの開始と終わりの暦日が,その年のマイワシの再生産成功率の対数変換値(LNRPS)と正の相関を示します。
  • ・つまり,春季ブルームが長引くことで,マイワシの仔魚期と春季ブルームの生産性が高い時期がより長く重複するようになり,日本海におけるマイワシの加入を改善すると考えられます.

太平洋クロマグロ0才魚は黒潮の沿岸側が好き?

今回は、懇親会でも解体ショーが行われるマグロに関係する、藤岡紘さん(水産研究・教育機構)の論文を紹介させて頂きます。

Fujioka K, H. Fukuda,S. Furukawa, Y. Tei, S. Okamoto, S. Ohshimo, 2018, Habitat use and movement patterns of small (age‐0) juvenile Pacific bluefin tuna (Thunnus orientalis) relative to the Kuroshio, Fisheries Oceanography, 27, 3, 185-198.

https://doi.org/10.1111/fog.12244

  • ・夏に日本南岸に来遊した太平洋クロマグロ0才魚の回遊様式をアーカイバルタグを用いて調べています。
  • ・標識魚の分布は黒潮より沿岸域に限定されており、その生息域は黒潮の離接岸に左右されることが示唆されています。
  • ・標識魚は夏に高知沖に滞留し、冬には素早く東方へ移動して、春にかけて房総半島から沖合の黒潮-親潮移行域へと移動していることが示されました。
  • ・天然海域を自由遊泳する生後2~3ヶ月齢の小さな0才魚(尾叉長20cm程度)の生息環境情報を本論文が初めて示しています。

黒潮水と親潮水の混合がもたらすアカイカの好漁場

Fisheries Oceanographyに掲載されました論文の和文要旨は水産海洋研究に掲載されますが、折角ですので、日本からの掲載論文について、メーリングリストで簡単なご紹介をさせて頂くことに致しました。五十嵐弘道さん(JAMSTEC)の論文を紹介させて頂きます。

Igarashi H., S. Saitoh, Y Ishikawa, M. Kamachi, N. Usui, M. Sakai, Y. Imamura, 2018, Identifying potential habitat distribution of the neon flying squid (Ommastrephes bartramii) off the eastern coast of Japan in winter, Fisheries Oceanography, 25, 16-27.

https://doi.org/10.1111/fog.12230

  • ・冬季の日本東岸域におけるアカイカの好適生息域を同定するためHSIモデルを作成し、2006年の漁場の特徴を描写しました。
  • ・暖水渦の縁辺部とアカイカの好適生息域との間に明瞭な関係が見られ、この領域での黒潮水・親潮水の混合が、アカイカの摂餌に好ましい環境の形成に寄与していることが示唆されました。
  • ・亜表層が暖水で覆われている状況が、安定した漁場形成にとって更なる利点をもたらしていると考えられました。
  • ・3次元の環境変数を用いたHSIモデルを作成することで漁場の特徴が良く再現されることがわかりました。

東シナ海の夏秋の水温がクロマグロの加入量を決める?

Fisheries Oceanographyに掲載されました論文の和文要旨は水産海洋研究に掲載されますが、折角ですので、日本からの掲載論文について、メーリングリストで簡単なご紹介をさせて頂くことに致しました。石田行正さん(水産研究・教育機構)の論文を紹介させて頂きます。

Ishida Y, H. Fukuda, K. Fujioka, O. Sakai, Y. Hiraoka, K. Oshima, S. Nakatsuka, N. Suzuki, H. Shimada, 2018, Long‐term changes in recruitment of age‐0 Pacific bluefin tuna (Thunnus orientalis) and environmental conditions around Japan, Fisheries Oceanography, 27, 1, 41-48.

https://doi.org/10.1111/fog.12232

  • ・1952年から2014年の0歳太平洋クロマグロの加入量を連続レジームシフト検出法によって調べました。
  • ・加入量のレジームシフトは1957年、1972年、1980年、1994年、2009年に検出され、その期間は8〜15年で平均13.0年でした。
  • ・加入量と夏と秋の東シナ海北部の海面水温偏差の間に正の関係が認められました。
  • ・これらの結果は、東シナ海北部の海洋条件が太平洋クロマグロの加入量に密接に関連しており、より暖かい条件が本種のより高い加入量につながることを示唆しています。

クロマグロの産卵が新月前夜に増加?

Fisheries Oceanographyに掲載されました論文の和文要旨は水産海洋研究に掲載されますが、折角ですので、日本からの掲載論文について、メーリングリストで簡単なご紹介をさせて頂くことに致しました。まずは、下瀬環さん(水産研究・教育機構)の論文を紹介させて頂きます。

Shimose T., Y. Aonuma, T. Tanabe, N. Suzuki, M. Kanaiwa, 2018, Solar and lunar influences on the spawning activity of Pacific bluefin tuna (Thunnus orientalis) in the south‐western North Pacific spawning ground Fisheries Oceanography, 27, 1, 76-84.

https://doi.org/10.1111/fog.12235

  • ・琉球列島周辺海域の産卵場におけるクロマグロの産卵頻度が産卵期間中にどのように変化するかを、漁獲物の卵巣を組織学的に観察することによって調べました。
  • ・産卵頻度は、4月中旬から7月上旬の期間中上昇し続けることが明らかになり、産卵盛期は漁業の盛期より遅れると考えられました。
  • ・産卵頻度は、漁期中に2~3回ある新月前後に上昇することも明らかになり、生み出される卵や孵化仔魚の夜間の被食圧低減に効果があると推測されました。
  • ・マグロ属魚類で、新月前後に産卵頻度が上昇する例を示したのは本研究が初めてです。

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