水産海洋学会について

学会会長の所信

学会会長の所信

新体制の発足にあたって

水産海洋学会会長 木村伸吾(東京大学)

1962年に発足した水産海洋学会は、まもなく設立60年を迎えようとしています。設立時の目標は、「水産学・海洋学の研究者と漁業者との対話に重点を置きながら、生物資源と環境の相互作用を明らかにし、水産業の発展に寄与する」であり、現在もその目標に変わりはありません。当時、一般社会が高度経済成長期の恩恵を享受する中で、海洋環境や資源動態の研究が進みつつも顕在化し始めた海洋汚染や乱獲の問題が将来の水産業を脅かす深刻な事象と捉え、それらの問題解決を含め、海洋環境変動が水産資源の成長・生残、分布・回遊に果たす役割を科学的根拠に基づいてメカニズムを説明し、漁業生産力の推定や資源変動予測を通じて、最終的には持続可能な資源管理方策の提言を目指すことが水産海洋学の主要な目的であり、それを支える基盤が水産海洋学会であると私自身は理解しています。一方で、水産、海洋を取り巻く状況は年々大きく変化しています。とくに、研究成果に基づいた政策立案や法制化を念頭に研究目標を定める場合も多くなり、水産資源だけでなく様々な海洋資源の持続的利用や海洋権益の確保といった観点からも水産海洋学研究のニーズが高まっています。例えば、洋上風力発電などの海洋再生可能エネルギー開発に関連した漁業影響評価や海域利用、沿岸域開発などの検討がその一例でしょう。また、安定同位体や環境DNAなどを用いた新しい分析手法が水産海洋学にも取り入れられるようになり、学際領域の研究分野である水産海洋学が担う研究領域は、時代と共に広がっているともいえます。

水産海洋学会は設立以来の目標に向けて、地域研究集会、シンポジウム、研究発表大会の開催と、水産海洋研究およびFisheries Oceanographyの発刊、宇田賞、奨励賞、論文賞、若手講演賞などの学会賞表彰、海外渡航補助などの事業を実施し、途中に学会事務センターの破綻による財政危機を迎えつつも、それを乗り越えて順調に学会活動が展開できているものと考えています。とくに地域研究集会は13地域で展開されており、研究発表大会と年2回のシンポジウムも加えると平均して毎月1回の研究集会が開催されていることになります。これは、他の学会と比較しても非常に特徴的な活動であり、地域研究集会は本学会にとって重要な役割を果たしています。

このような状況を踏まえ、2021年度のからの新体制では、笠井亮秀副会長、米崎史郎副会長、小林雅人監事、増島雅親監事、理事の方々とともに、歴史の重さを感じながら学会活動を安定的に継続することが責務と考えています。新理事のうち、半分が若手が占めることになり、総務委員長には伊藤幸彦理事、事業委員長には高須賀明典理事、編集委員長には高津哲也理事、国際誌委員長には伊藤進一理事、学会賞受賞候補推薦委員長には後藤友明理事、選挙管理委員長には杉崎宏哉理事、若手・女性・地域活性化委員長には佐々木祐子理事に就任頂き、活力ある学会活動を支えてくれる布陣となっています。

一方で、水産海洋学会が抱える問題は、歴代の会長が懸念されている通り、縮小社会の日本が抱える問題でもある会員数の減少です。とくに学生や若手の会員の獲得は重要であり、本学会におけるこの年代の割合は低い傾向にあるので、入会しやすい、また、入会することによって恩恵を授かることが実感できる事業展開が望まれます。例えば、学生会員は研究発表大会の参加費や懇親会費は不徴収、若手会員の水産海洋研究の超過ページ不徴収などの金銭的な支援が考えられます。しかし、何よりも、最新の高度な研究や新たな発想に繋がる斬新なアイディア、さらに、それらを推進する研究者に接する機会があることが若者の琴線に響くのであり、そのためには、それらの情報が水産海洋学会から発信されるように会員に促し、学会としても情報発信能力をいっそう向上させる必要があります。

その一環として、前理事会から継続してご尽力頂いているホームページの全面改訂が進んでいます。コロナ禍のためにオンライン環境が飛躍的に向上し、対面を併用しハイブリッド化が進めば、各種事業が広く展開できます。さらには、情報が溢れている現代社会では、必要としている開催情報が適切に会員に伝わることのできる方策の構築も必要です。私が思っているよりもSNSを活用した情報共有や最新技術の利用は20〜30代で進んでおり、新体制はそのようなことも念頭に事業を展開していきたいと考えています。また、地域研究集会を通じた漁協など産業界との関係強化を図り、速報性やニーズの高い情報はニューズレターを発刊することによって素早く周知するなど、機動性のある対応を検討してみたいところです。しかし、それらは関係者の努力と熱意に依存するところが大きく、負担がなるべく増えないように円滑な運営を目指すことも会長の職責と考えています。

コロナ禍にあって、対面での事業展開が当面制限されるものと予想されます。互いに顔を合わせて議論し親睦する場を提供することも水産海洋学会の役割だと理解していますので、まずは活動のパフォーマンスを維持しながらその時を待ち、水産海洋学会のさらに活力ある事業展開を目指す所存です。つきましては、会員の皆様のご理解とご協力をお願いすると同時に、各種事業への参加、新規事業の提案など積極的な学会活動への参画をお願い申し上げます。